山のあなた
カール・ブッセ 上田敏訳山のあなたの空遠く
「幸」(さいはひ)住むと人のいふ。
噫(ああ)、われひとゝ尋(と)めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」(さいはひ)住むと人のいふ。
有名な詩の「山のあなた」ですけど、この詩では幸いは山のあなた(彼方)にあって、そこへたどり着かなければ幸いを手に入れられないと言っています
幸いというのはおいそれと手に入るものではなく、たくさんの苦労と努力を積んでもなかなかたどり着けないモノだということですね
はたして、幸せはそんな彼方にあるのでしょうか
人間が幾転生を繰り返し、生まれ変わり、死に変わっておりますが、輪廻の終焉にしか幸せが無いのなら、人間とは永劫の間苦しまねばならない存在として作られたのでしょうか
アルベール・カミュは「シーシュポスの神話」という作品で、そうした存在として人間を論じました
シーシュポスは理由は分からないが、神々の怒りを買ってしまい、大きな岩を山頂に押して運ぶという罰を受けた
彼は神々の言い付け通りに岩を運ぶのだが、山頂に運び終えたその瞬間に岩はまた麓へと転がり落ちてしまう
こうしてシーシュポスは永劫に無意味な作業を繰り返さないといけない罰を受けます
カミュは人間もこのシーシュポスと同じで、意味も無く生れ落ちた存在である人間が、その無意味さを背負いながらそれでもなお生きる姿を論じました
もう一人の作家の著書を紹介します
メーテルリンク作の「幸せの青い鳥」はほとんどの方がご存知でしょう
2人兄妹のチルチルとミチルは、過去や未来の国に幸福の象徴である青い鳥を探しに行きます
さまざまな世界を探し回る二人ですが、いくら探しても見つからず、あきらめて自宅へと帰ると、自分たちの最も手近なところにあった鳥籠の中に青い鳥はいたと言う物語です
チルチルとミチルが訪れる様々な国は、あの世の世界を文学的に表現したように感じられるので、作者のメーテルリンクは霊能力者であったか、深いインスピレーションを受けて書いたのでしょう
この物語で青い鳥とは幸せを象徴しており、人は一生懸命に外の世界に幸いを捜し歩くのですが、実は幸いはもっとも身近にあることを意味しています
私たちは、お金持ちになったら幸せになるとか、出世したら、あるいは、名声を得たり、人から賞賛を得るようになったら、幸せが手に入ると考えがちです
ですが、今現在、いまここに置かれている環境、取り巻く人の中で幸いを見出せなければ、いくら捜し求めても手に入りません
人から羨ましがられるような生活にあこがれるものですが、そうした人目を頼りとする幸せは、いつか色あせて消えていきます
他人を物差しや尺度にするのではなく、自分自身の目で世界を見直さなければなりません
今ここにある幸せに気づくことこそ、一瞬にしてしあわせを手に入れる魔法です
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